動中の工夫

坐禅コミュニケーション

調剤室に自分がいない薬剤師

 山岡鉄舟居士に次のような逸話がある。

 鉄舟居士のかかりつけの医師として出入りしていた千葉立造医師に、居士は「あなたは医師でしたな。では病気の診察は出来るでしょうな?」と尋ねられた。「大したことはありませんが、まあ一通りの診断はできます」と千葉氏は答えた。

 鉄舟居士「あなたは診察するとき、患者が見えますか?また、そのときあなた自身の身体がありますか?」

 千葉氏「もちろんあります。自分の身体がなかったり、患者が見えなかったりしたら、診察ができるわけがないでしょう」

 鉄舟居士「アッハッハッハ!そんなことで、本当に人の病気が診察できるとおもっているのですか。あなたは!」

 その後、憤激した千葉氏は鉄舟居士の出した公案に懸命に取り組み、ついに認められた。

 似たような話を先日、ベテランの敏腕薬剤師の先生から伺った。

 いつもは感情的な性格なのだが、調剤室に入ると感覚が研ぎ澄まされ、自分がいなくなる感覚になる。他の薬剤師さんからは調剤室では人が変わったように冷静ですねと良く言われるとのこと。

 禅経験のない先生であったが、長年の経験で鍛えられた身心から発せられたすごい禅語だったと思った。