動中の工夫

坐禅コミュニケーション

腹に力を入れることの可否

 無字の公案に取り組むときは、よく「ムー」とうなるように腹に力を入れよなどと言われる。この「腹に力を入れる」とはどういうことか?

 腹に力を入れて呼吸することでかえって呼吸が荒くなってしまう(呼吸数↑)こともあるし、顔を赤くしてのぼせてしまうこともある。理想的な坐禅は上虚下実であるのと反対のことになってしまう。秋月龍珉氏は「臍から上のどこにも力を入れない」と教えているが(『秋月龍珉著作集15』146頁)、私のような初心者が腹に力を入れると、引きずられて胃部にも力が入ってしまう。これは非常に危険な呼吸であり、逆流性食道炎などを引き起こすかもしれない。

 大森曹玄『参禅入門』には「腹に力を入れることの可否」という項が立てられ、いろいろ研究しているが、「要は肉体的な力ではなく、精神的な力を臍下丹田を軸として全身に横溢させるべきである」と述べられている。

 私なりに研究してみたところ、

・俗に言う「腹筋」による力ではなく、腹と腰の力のバランスが大切であり、大森氏の言う精神的な力もしくは筋力であるとしてもいわゆる姿勢筋とかインナーマッスルのおさまり具合が肝心である。

・「腹の力に対する意識」と、「数息観・公案に対する意識」のバランスが大切である。この両者がピッタリ寸分違わず一致する必要がある。
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 私は前者が弱いと感じたら臨済宗流の速い経行で腹の力をつくり、後者が弱いと感じたら曹洞宗流のゆっくりとした経行で観法のコツをつかむなどの工夫をしてそれなりに有効だった。

・静かでイキの長い呼吸をしている時に呼吸が自然と力をもつような姿勢が必ずあり、それを工夫する必要がある。