動中の工夫

坐禅コミュニケーション

TPPに抵抗する精神性―4つの提案

TPP反対の活動というと、デモ・抗議活動、政治家への陳情・FAXといったことが思い浮かぶであろう。
そういった活動についてはほかでまとめられていると思うのでここでは紹介しない。ここで紹介するのはTPP反対のメンタル面的活動である。

TPPに参加するということは、大筋においてその国の制度がアメリカ化するということと捉えて大きい誤りはなかろう。アメリカの貧富の差が大きく満足な医療を受けられない人々も大勢いるのに、それでも成り立っているのは、彼らの「自分の身は自分で守る」という精神ではなかろうか?マイケル・ムーアの「シッコ」という映画ではうそかまことか自分の傷を自分で縫ったりしている。
ここで私が考えるTPPに反対するメンタリティとは日本人の良い精神性を保ち、かつ彼の国の「自分の身は自分で守る」という美徳も取り入れるのである、それもより昇華させたかたちで。

「そんなことは無理だ」とおっしゃるかもしれないが、現に日本においてもかつては無医村が多く、そこでは経験的に自分の体は自分で守るということが行われていたと医療人類学者の波平恵美子は言っていた。(たぶんこの本に詳しく出ています、三浦於菟・波平 恵美子・福生吉裕『未病息災―いま、たおやかに生きるコツ』 )。

誤解しないでほしいが、わたしはTPPに対して参加しても大丈夫なよう万全の備えをすべきと思っているが、参加に賛成なわけではない。むしろ万全に万全を重ねて参加のための準備をしてそれでも参加しないというのが良策と心得ている。

それではTPPに抵抗する精神性とは?打開策を4つ提案したい。

Ⅰ.家庭菜園をしてみる
節電対策でゴーヤを植えたりと流行しているが、どんどんやってみるべし。自分の食べたフルーツの種から植物を育ててみるという趣味もある。収穫までは望まないが楽しいものである。種苗法に抵触する?難しいことはわかりませんが堅いこと言うなよと思います。
なぜこれがTPPと関係するかというと、TPP参加によって家庭菜園が禁止になったり、 自家採種が禁止されるという可能性があるからです。本家アメリカでも批判が多いとのことですが、TPPを推進する企業は家庭菜園を苦々しく思っているということがわかり面白いと思います。単に家庭菜園により業者の収入が減るからというだけが理由ではないと思います。家庭菜園をするという精神性にTPP推進企業にとって面白くない何かがあるのでしょう。家庭菜園が「なるべく近隣の地域で収穫された、季節ごとの食べものを食べるのが望ましい」というマクロビオティック思想を生む温床になっていると感じているのかもしれません。
いずれにせよ家庭菜園を通じて、植物のたくましさに何らかの気付きがあるはずです。


Ⅱ.「剣道」「茶道」などと「道」のつく趣味を仕事とは別にもつ
日本固有のものでなくても、「ヨガ」「太極拳」「少林寺拳法」等々なんでもよいと思います。要は身体感覚を養うのが目的です。マサイ族にはマサイ族の歩行があり、これがスポーツなどに取り入れられたりしていますが、身体感覚は精神性とも密接に関連しています。そしてこれは容易にまねることができません。TPPに参加して実際に運用されるまで数年はあるでしょうから、それまでにできるだけ上達することを目標にしましょう。手っ取り早いのは「呼吸法」を重視するるもので始めて半年もすれば心身に何らかの効果を実感できるはずです。
これに付随して文化的教養を学ぶのもよいと思います。たとえば「崩し字」を読んでみるとか、『論語』を丸暗記してみるとか。これも日本固有のものでなくても、アメリカ人が容易にまねできない何かであれば面白いと思います。これはささやかな抵抗では決してありません。

Ⅲ.生活習慣病の予防・早期治療を急ぐべし
何を隠そう私は薬剤師であるが、現在の状態でも国民皆保険制度は長くはもたないと実感することが多い。それでもまだ新しい社会保障制度をつくるだけの時間的余裕が残っているのだが、TPP参加は急速に国民皆保険制度の寿命を縮め、新しい制度をつくる余裕などなくなると考えられる。それだけ現行制度に体力は残っていないのである。そこで現行制度で安心して医療が受けられるうちに生活習慣病の予防・早期治療を急ぐべきなのである。
TPP参加によりこれまで医療費削減の名目で安く価格設定されていた薬代・検査代などは世界水準に合わせて上昇すると思われる。そのなかでも風邪薬・湿布などもともと古くからある薬はあまり上昇しない、生活習慣病などここ10数年で使われだした新しい薬の価格が急激に上昇する。
そこで生活習慣病の予防・早期治療を急いで欲しいと思うのである。手術などは医者の腕に負うところが大きいが、生活習慣病の主体は薬物療法と生活改善でありその主役は患者自身であり、医者にはどうすることもできない患者自身の心がけが重要になってくる。それゆえに患者自身が真剣になれば改善できることも多いのである。
そこで疾患別にポイントをまとめた。もとより生活習慣が重要な疾患なので、心がけ次第で「薬がいらなくなった」「薬の量が減った」ということも多いのである。仮にそうならなくても落ち込むことはない、目に見えずとも効果はあるのである。

高血圧薬物療法が主体であるが、その診断・治療の基準となる血圧は病院ではかる血圧でなく、自宅ではかる「家庭血圧」である。したがって「家庭血圧」を「血圧手帳」などに記録しておくと治療上大いに役立つ。薬の量が減らせるかもしれないし、隠れ高血圧を発見できたりする。
脂質異常症:使用する薬物自体は高価なものが多いが、一種の薬で治療することが多いので、皆保険制度崩壊後の影響も少ないと思われるが、他の生活習慣病との合併が、重大な疾患リスクを高めるのでやはり早期治療が望ましい。
糖尿病:皆保険制度崩壊で最も影響の大きい疾患の一つかもしれない。薬自体が高価な上、数種の薬を併用するからである。民間の医療保険ではおそらく糖尿病をもっていると支払う保険料が上昇すると思われる。
しかしそう悲観してもしかたがない。糖尿病では「血糖値が高い状態が続くとますます血糖コントロールが悪くなる」という悪循環と「血糖値が良好な状態が続くと血糖コントロールがしやすくなる」という好循環がある。なかなか好循環に移行しないのは、インスリンの自己注射、食後・食事の直前・食前など複雑な用法の薬をうまく使えていないことが大きい。用法をしっかり守っていただいただけで、Hba1cが8台から6.5まで下がった方もいた。そこまで顕著な例は少ないかもしれないが、薬を実際に飲むのは患者自身のため、いかなる名医にもいかんともしがたい部分があるのである。
いちど好循環に移行するとコントロールがしやすいことから、教育入院もおすすめできる。
TPP参加で医療が受けにくくなると困るから早めに治療しようというのでなく、悪循環に陥ることがますますの悪化につながるので、ぜひしっかり治療してください。    
喫煙:喫煙そのものが上記にならぶ一つの生活習慣病と捉えていただきたい。たばこをやめるだけで一つの病気が完全に治療できるのである。

生活保護について
現行制度においても医療費が払えなくなり、体調悪化のため仕事も難しくなり生活保護をうけるということが珍しくない。適切な医療が受けられればまだ仕事を続けられた可能性も大いにあると思う。医療費が払えなくなると残るセーフティネット生活保護ということになる。医療保障のセーフティネットが崩壊すると生活保護が増え、社会保障制度はドミノ倒しのように崩壊してゆくのかもしれない。

Ⅳ.まとめ―「生活を守る」とは「生活をする」ということ
TPPから「生活を守る」とは主体的に今の「生活をする」ということである。
こういって抽象的であれば、「今の生活を観察してみる」「今の生活を味わってみる」と言い換えたい。ふだん無意識的に行っている生活をもう一度、考えてみる。この鉛筆はどうやって作られてきたのか?今使っている電気は?これは?あれは?と問いかけてみる。朝日を浴び、呼吸をする。空があって、大地があって、私がいる。こんなことを始めてしたかのように味わってみる。
そうすると見えてくる本質、これを国民ひとりひとりが持つ、そうすればそうたやすく国は崩壊しないと私は考えている。